みあげればソラ

「あんた、ホント、何処に行こうとしてるの?」

上手く世渡りしているように見える息子の、何処か刹那な状態が幸恵には心配でならないのだ。

「えっ、俺、何処にも行く予定なんかねぇよ」

「場所じゃないわよ、あんたの心」

「俺のハートは誰のもんにもなりませんよ。

売れっ子ホストですからねぇ」

「わたしは真面目に心配してるの」

「大丈夫だよ」

「アリスを救えなかった償いをしようとか……」

「思ってねぇよ!

そんなくだらねぇこと考えちゃいねぇよ!

ただ俺の周りにほっとけない奴らが集まってくるだけだよ」

「神様はあんたに何を求めておいでなのかね」

「おふくろ、いつから信心深くなったんだよ?」

「わたしは信じてるよ、昔っから、神の存在を」

信仰心というものとは少し違う。

絶対無二の運命を操る大きな存在、幸恵はそれが神だと思っている。

そして人間はその運命には逆らうことはできない。

生まれて生きて、そして死ぬ。

「へぇ〜、 初耳だ」

「ねぇ弘幸、アリスは無に戻ったの。

苦しみも悲しみもない無の世界。

そこは、多分、神様のいる天国」

「天国がそんないいとこなら、みんな死にたがるじゃねぇか。

死んで救われるなんて臭い考え、俺は到底受け入れられねぇな。

アリスは苦しみぬいて死を選んだ。

そんな選択を強いたのは俺だ。

神様の目は所詮節穴さ、そんなことも見抜けねぇんだから。

だから俺は自分で自分に罰を与える」

「弘幸、そういうのを愚か者って言うんだよ」

——ほんと、どうしようもないバカ息子だよ!
< 40 / 207 >

この作品をシェア

pagetop