死の百物語と神は云う。
 部屋の前までやってきた私は、何か言い表せない違和感を感じましたが、すぐにその違和感の正体が分かります。

 先程から赤ん坊が泣いていないのです。

 赤ん坊がただ寝ているのだとしたら、泣いていないことは全然おかしなことでは無いのですが……。

 生唾を飲み込み、恐る恐る部屋に入り、赤ん坊が寝ているであろうベッドを覗き込んだ刹那、私は恐怖と驚きのあまりに絶句しました。

 その赤ん坊は、人形だったのです。

 私はすぐに渡された電話番号にかけ、電話にでた奥さんに事情を説明すると、幸いにもまだすぐ近くにいるということもあり、帰ってきてくださいました。


「針谷さん?電話の件、どういうことなのかしら?私達の赤ん坊が人形だということでしたけれど……」


 部屋に入ってきた奥さんは、怒っていない、比較的に優しい口調で尋ねてきました。

 私は完全に驚きで腰が抜けてしまっていて、赤ん坊の人形が横たわっているベッドを指差します。

 奥さんと旦那さんはすぐにベッドに駆け寄り、そして、言ったのです。
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