始まりのチョコレート
そうだ、そんな可哀想な中谷くんには、私からプレゼントをあげよう。
はぁ、なんて優しいんだろう私。
顔合わせるたびに文句言ったり、ひとの頭を叩いたりするような男に、プレゼントをめぐんであげるなんて。
「バレンタインのチョコ、念のためたくさん作ってきたけど、中谷にも一個あげようか?可哀想だから」
「・・・いや、いい、いらん」
「いいよエンリョしなくて、あんたのことだから、どうせ他に貰う予定もないんでしょ?」
「いらん言うてるやろ、しつこいな」
「なにその言い方、あんたってなんでそう、いつも上からなのよ」
「はぁ、うるさい女・・・」
「はぁっ?」
「あんな糖分の塊食うぐらいなら、貰えへんほうがマシなんで、結構です・・・・ど?これで満足?」
「ほんと、人を苛つかせる天才だね、中谷くんは!」
そうだった。
中谷は、折角の優しさを無下にするような最低なやつだった。
だめだ、こいつと話してると、ただイライラするだけで、時間の無駄な気がしてくる。
たまに口を開いたかと思えば嫌みって・・・こいつは、とんだひねくれものだ。
中谷は、チョコが嫌いらしい。
ほんとう、嫌いなものばっかりだ。
そんなことだから、誰からも愛されないんだよ。
愛されたいとも、思ってなさそうだけど。
ひねくれてるから、好きなものがあっても、素直に誉められないのかもしれない。ああ、可哀想に。
「分かったよ、店長にでもあげるからさ」
文庫本を開く場違いな中谷の顔に、ふうーと紫煙を吹きかける。
するとやつは眉間にシワを寄せて、あからさまに嫌悪感丸出しの顔をした。
これくらいのこと、許して欲しいものだ。
じゃなきゃ、私の気がおさまらない。
だが、こいつがやられたままで大人しくしているような男じゃないってことに、やられ返されて、改めて気付いた。
私の鼻の頭に、骨ばった拳を力加減なしにぐりぐりと押し付けてくる。
地味に痛い。
「なにすんのよ」
「可哀想だからとか、一言余計や、あほ」
そんなこと気にしてたとか、やっぱ、ちっぽけな男。
こんなやつに、ちょっとでも同情した私がバカだった。
だいいち、大阪出身のくせに無口って何なんだよ。
面白いことだって、ひとつも言わないし。
それどころか、口からついてでるのはどれもこれも嫌みなことばかり。
嫌みを言うなら、私になんか関わらなければいいのに。