少年アリス
スーパーの重いレジ袋を手に提げながら、僕は薄暗くなってきた商店街を歩いていた。



子供がお手伝いで買い物を持ちながら、親に「今日のご飯は何?」と尋ねるような、そんな光景が目につく。



そんな端から見たら幸福な一場面も、見る度に少しずつレジ袋が重くなっていくような気がした。



僕にはお母さんがいない、生まれた時からずっと。 彼女が今どこで何をしているのかは、知らない。



お父さんやお兄ちゃん達の方から話すようなことはなかったし、僕の方から聞くような事もなかった。



歳も名前も、顔すらも僕はしらない。



家には驚くほど、お母さんの居た痕跡みたいなものが無かった。 そんな人は始めから存在しないんだと言い切るみたいに。






一人でレジ袋を持って歩いてる自分が何となく惨めで、泣きそうになった。



そんな時、あるものが僕の目に止まった。



シャム猫だった、しかも真っ黒な。
鈴をつけているから多分飼い猫なんだと思う。


商店街の中に猫がいる、それもシャム猫なんて普通じゃあまりないことだった。



道のど真ん中を堂々と歩いているのに、猫には誰ひとりとして目を向けない。 まるで僕にしかその猫が見えていないみたいに。



猫はその長い尻尾をピンッと立てて悠然と歩いていた。
だが、しばらくして突然フッと猫が消える。



「え……!?」



慌てて、猫の姿を探す。
視界の隅に、大きくてふさふさした黒い尻尾がチラつく。


猫は消えたのではなく、小さな横道に曲がっただけだった。



この商店街の途中には横道が沢山あるけど、こんな道は始めて見た。



猫の曲がった横道はとにかく細くて、真っ黒で何も見えない。



道のずーっと奥に、ぼんやりと薄オレンジ色のライトに照らされた、板チョコみたいな形のドアが見える。



その明かりに誘われるように、足は自然と道を曲がって進んでいた。





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