吐き出す愛
「お待たせしましたー。漁師風海鮮トマトパスタと、きのこの和風醤油パスタです」
ちょうど良く会話の間に、注文していたパスタが到着した。
有川くんの前には爽やかなトマトの薫りのパスタ、私の前には醤油が焦げた芳ばしい薫りのパスタがそれぞれ並ぶ。
お腹の底で、ぐうっと小さな音が響いた。幸いお店のBGMに掻き消されて、誰にも聞こえなかったみたいだけど。
「冷めないうちに食べよっか」
「うん!」
――いただきます。
声が重なり、2人の顔は自然とお互いを見る。
私を見る有川くんの瞳は、とても優しかった。
パスタを食べている間は、思っていたよりも会話が盛り上がった。
高校時代のこと、今の生活のこと。
中学校卒業後5年間の思い出話は、お互いのことを知らない期間の話だからこそ好きなように話せていたのだと思う。
中学時代の話は、どちらも触れなかった。
あの頃の同級生の名前さえ、一度も出なかった気がする。
まるで禁句というか、繊細な話題のように感じられて、2人とも一歩引いているみたいだった。
私も有川くんも。
唯一共通の友達である優子の名前さえ、言いかけたけど躊躇って口を噤んだぐらいだし……。
あの頃の時間がなければ、私も有川くんも今こうして話していることはなかった。
だけど、あの頃の時間があったからこそ、出来た空白の時間もあるわけで。
複雑な時間だったからこそ、簡単には触れられない。そんな思いがあった。
私を普通に誘ってきた有川くんを見たときは、あの頃のことなんて気にしていないっていう予測も脳裏にあったけど。
そんなの、あからさまにあの頃の話をしない有川くんを見ていたら、私の都合の良い解釈だったと自覚した。