吐き出す愛


 食後にそれぞれコーヒーと紅茶を頼み、それがテーブルに来た頃には、さすがに話題もなくなり始めていた。

 ティーカップに口をつけているときは自ずとお互い黙ってしまうので、2人の間にだけ静かな空気が流れる。

 それがやけに重苦しく感じて、私は密かに用意していた勇気を振り絞った。


「……中3の冬に、私が有川くんに“関わらないで”って言ったこと覚えてる?」


 私を見る有川くんの表情が、明らかにさっきまでとは変わった。強張って、目は驚いたように丸くなっている。

 それもそのはずだ。
 だってさっきまで避けていた話題に、突然入ろうとしているのだから。

 ……だけど、食事をしている間に決めたんだ。
 せっかく有川くんに再会出来たのだから、このチャンスを無駄にしたくないって。

 変な気遣いをしたまま、有川くんとこのまま別れたくないって思ったんだ。

 あの頃の話題に触れたら有川くんにどんな態度をされて、何を言われるのかも分からない。

 だけど、私には言わなきゃいけないことがある。
 あの日、傷付いたような顔をしていた有川くんに……。


「……ああ、覚えてるよ」


 有川くんがティーカップを置いて真面目な顔になる。
 私がこれから言うことを考えて、そして待っているような顔だった。

 テーブルの下。膝の上でぎゅっと手を握り締めながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「あのとき……、ちょっと言いすぎたかなって思ってる。一方的に関わらないでって言うだけで、有川くんの気持ちは全然考えてなかった。だから、その……ごめんなさい」

「何で、佳乃ちゃんが謝るの?」

「だって有川くん、……傷付いた顔してたから」


 そこまで言うと、有川くんははっとしたように表情を固まらせていた。

 それから自嘲気味に笑いながら眉を寄せて私を見た。


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