吐き出す愛


「じゃあ、俺行くわ」

「……あ、うん。バイバイ」


 小さく手を振ると、片手を挙げて有川くんは応えてくれた。
 そして混雑したコンコース内を、器用に歩きながら東口に向かっていった。

 その背中を見失ったところで、私も西口の方に向かってとぼとぼと歩き出す。


 ……もう、会うことはないよね。

 次の約束もしていないし、そもそも今後も会うような仲ではない。
 今日会ったのは、たまたまにすぎないんだ。

 だけど私……、さっき別れ際に思ってしまった。

 もっと一緒に時間を過ごしたい。話していたいし、有川くんのことをもっと知りたい。

 それに、また会いたい。
 あの頃のように、私の世界に有川くんが飛び込んできてほしい。

 私は、有川くんのことが嫌いだったはず。
 それなのに、そんな謎めいたわがままを願ってしまった。

 どうしてだろう。
 こんなの……おかしいよ。


 近くに様々な学校がある駅の周りは、日曜日でも若者で溢れていた。

 西口から出るなり、部活のユニフォームや制服、私服など色々な格好の同世代の波に飲まれる。

 その早さに遅れを取らないように足を動かした。
 でも身体の早さに追い付けなかった心だけが、どんどん後ろに流されていく。

 急激にまた、自分が世間から浮いている感覚に陥った。
 過去に縋り付いて止まったままの心を抱えた私は、置き去りだ。

 有川くんはもうあの頃のことを気にしていない。そのことを知ってしまったら、余計に自分だけが置き去りになったみたい。


 ……もしも、の話だけど。

 有川くんからの告白を断っていなかったら、どうなっていたのだろう。

 あの日、キスシーンなんて見なかったら。
 そもそも有川くんと、関わることすらなかったら。

 今とは違う未来が、あったのかな。今とは違う形で、有川くんと会っていたのかな。

 それとも有川くんに、特別だと感じる感情さえ抱くことはなかったのかな。


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