吐き出す愛
有川くんと離れていた期間。
その間に私の中で膨れ上がった得体の知れない思い。有川くんにだけ抱いていると自覚した特別な感情。
それが、有川くんの言葉を聞いて全身に広がっていく。あの頃と変わらず、息苦しさを伴って。
……ああ、今なら、この気持ちの正体が分かるかもしれない。
どうしてあんなにも有川くんのことばかり考えていたのかも、全部。分かる気がする。
だけどその正体の名前には重りがぶら下がっているみたいで、浮上しそうで浮上しきれない。
……これで良いんだ。
分かりそうだとしても、その正体になんて気付きたくないのだから。
有川くんはとっくに、私と過ごした時間のことなんて気にしていない。
そんな状態で気付いたって、もう手遅れなんだ。
私が彼にこの感情を抱いていることに気付くなんて、今更すぎるんだよ。
いつになっても、振り出しになんて戻れないのだから……。
パスタ店を出たあとは、どこに寄ることもなく真っ直ぐ今の自宅の最寄り駅まで戻った。
電車を降りたホームからコンコースへ移動したところで、出口は西口と東口に別れている。
私の自宅は大学がある西口側で、有川くんの自宅は専門学校がある東口側だ。自然とコンコースで別れることになるので、その途中で向き合った。
「じゃあ、今日はありがとう。久しぶりに色々と話せて楽しかった」
「それは俺もだよ。会ってくれてありがとな」
有川くんは満足したような笑みを向けてくれて、私も同じように笑みを返す。
本当に、久しぶりに有川くんと過ごす時間は楽しかった。楽しかったという思いは、有川くんとの初めてのデートのときと一緒だ。
だけどパスタ店に居たときからもやもやした気持ちが思考を支配していて、楽しかったと思えば思うほど虚しくなった。
でもそんなことを感じているのはやっぱり私だけで、有川くんはもう東口の方に視線を向けている。