吐き出す愛


 頭2つ分よりも高い場所に苦労しながら手を伸ばすと、右隣から重なるように大きな手が現れる。


「はい。これで良かった?」


 有川くんは私よりも先に問題集を本棚から引き抜き、そして差し出してくれた。


「あっ、ありがとう」

「どういたしましてー」


 受け取った重みを胸の前に抱える。有川くんはすぐにまた別の参考書を吟味していたけど、やっぱり表情を歪ませていた。

 ……だから、なのかもしれない。
 明らかに困っているのが分かったから、ついつい声をかけていた。


「あの……」

「ん?」

「良かったら、少しだけ一緒に勉強しない? 私今から学習スペースで勉強していく予定だから、分からないところとかなら教えられるし……」


 そっと表情を窺えば、きょとんと目を丸くしていた。
 すぐに返事をしてくれないから、徐々に不安が募る。


「い、嫌なら別に良いの! これから予定があるなら、全然断ってもらっても大丈夫だから」

「いや、ちっとも嫌じゃねえよ! むしろ佳乃ちゃんから誘ってもらって大歓迎だ。……つうか、珍しいよな。佳乃ちゃんの方から提案してくるなんてさ。普段は俺から話しかけないと反応してくれねーのに」


 ……確かに、その通りだった。

 有川くんが不思議そうに首を傾げるのも無理はない。


 一緒に帰ったあの日から、有川くんは頻繁に私に話しかけてくれるようになった。
 さすが自分のことを知ってほしいと言っただけあって、私を見かけるたびに挨拶や声をかけてくる。関わろうしているのは明らかだった。

 でも一方で、私はそれをいつも受け身で待っているだけ。
 挨拶はもちろん返すし会話もそれなりに続けるけど、自ら有川くんに関わろうとは相変わらずしなかった。


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