吐き出す愛






「そういえばさ、聞いたー? 智也が高崎(たかさき)さんを好きだって話」

「ああ、あの話ねー。聞いた聞いた」


 5時間目の自習を終えたあとの休み時間に、トイレに響いた高めの女子2人の声。

 トイレの個室から出ようとしたまさにその瞬間にそれが耳に入り、自ずと扉を開けようとしていた身体が動きを止めた。

 だって扉の向こうで話題となっている人物の名前が、紛れもなく有川くんと私だったのだから。

 たっ、タイミングが悪すぎるよ……。

 会話の切り出しからして、あまり聞きたくない話だと分かる。誰かが自分の話をしているのを盗み聞きしたくはないけれど、今ここで出るわけにもいかない。

 だから気まずい思いを抱えながらも、息を殺して女の子たちが立ち去るのを待つことにした。

 水道口から流れる水の音に負けない大きなお喋りの声は、私にも無駄にはっきりと聞こえていた。


「最近やけに智也が高崎さんに構ってるとは思ったけど、まさか好きだとは思わなかったわー」

「あはは、確かに~。でもさ、好きって言ってもどうせあれでしょ? いつもみたいに一時のやつだろうね。遊び相手としての好きってやつ」

「やっぱそうなのかなー。でも智也って、今まで高崎さんみたいなおとなしい人とは全然遊ばなかったじゃん? だから意外っていうか、今回は本気な気がする」

「どうだかね~。自分と似たような女子は飽きたから、暇潰しにタイプが違う子を選んだんじゃないの? どうせあんなの、長続きしないよ。本気で付き合い始めたような子でも、飽きたらすぐに別れるようなやつだもん。智也は真面目な顔して好きとか言っても、どうせ遊び相手としか思ってないからね~。あいつははっきり言って、恋愛なんて向いてないんだよ」


 キュッ、と。

 蛇口が締まる音が、空気を揺らしたような気がした。


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