吐き出す愛
だけど、そう感じたのは私だけだったみたいで、会話はほぼ途切れることなく続く。
ドクンドクンと、いつもより緊張した胸の音も止まない。
「うわー! あんたが言うと説得力あるわー。さすがその智也の遊び相手として付き合ってただけあるねー!」
「ちょっと、人の黒歴史を楽しそうに言わないでよ~。自分だって一応、智也の1週間の元カノのくせに~」
「ギャー! あたしの黒歴史なんて掘り返さないでよ! それ忘れたいことなんだからー!」
「別に良いじゃん。ほんとのことなんだからさ~」
「えー、でもさー……」
2人の声が徐々に小さくなる。
女の子たちが立ち去って行ったらしく、それ以上の会話はもうほとんど聞こえてこなかった。
トイレに入ったままの私。耳に残る、有川くんの過去。
潜めていた息が本当に止まったような感覚がして、胸の奥底が酸素不足で苦しくなった。
……何でだろう。胸が苦しくてしょうがない。
有川くんが色んな女子と付き合っていたことも、遊んでいることも、長続きしない付き合いをしていることも。
そんなの、とっくの前から知っていた。
ついこの間まで私が知っている有川くんの姿がまさにそれだったわけで、今さらその事実を聞いても驚かないはず。
それなのに、まるで初めて知ったみたいに衝撃を受けている気がするのは、どうしてだろう……。
キィィ……と小気味の悪い音を立てて、ようやく個室から出る。
手洗い場の鏡の前に向き合って見た自分の顔は、想像以上に苦痛に歪んでいた。
……だからこそ、気付いた。
私の中の有川くんへの嫌悪感は減ったように感じていたけど、それは違うことに。
本当は、ただ、見ないフリをしていただけだということに。