吐き出す愛
「……っ!」
――ズキン。
そんな初めて聞く音が耳元で弾けるのと同時に、今までの比ではない苦しさと痛みが身体の中心部を襲った。
全力疾走をしたあとのような息苦しさに耐える中、視線の先では2人の唇が何度も離れたりくっついたりする。
有川くんの背中に回された細い腕。女の子の頭を引き寄せる大きな手。
それを確認したあと、私はやっとの思いでその姿から目を逸らすことが出来た。
そしてそのまま、ずるずるとその場にしゃがみこむ。
ズキンズキンと鳴り続ける胸を制服の上から掴み、私は息を整えようと大きく息を吸ったり吐いたりした。
そうしてやっと落ち着いた、呼吸と鼓動。
唇を噛み締めてぎゅっと強く瞼を閉じると、何だかとても、自分がちっぽけな存在に思えた。
「……馬鹿、だなあ」
今日はどうも、とことんタイミングが悪すぎるみたい。
さっきのトイレの会話も、今のキスシーンも。
全部最初から分かっていたのに、気にしないようにしていたときに限って姿を現すのだから。
しかも有川くんが女子とデートしたり密着する光景は見たことがあったけど、さすがにキスシーンは見たことがなかった。
だから……なのかな。
自分がこんなにも動揺するなんて、思ってもみなかったよ。
有川くんが軽い人なのは知っていたけど、さすがにこれはきつい。
決定的な何かが、私の中で動いた気がする。
溜め息を落とすと、冷たい床から自分に跳ね返ってくるみたいだった。
……ねえ、有川くん。
私、あなたの本心が分からないよ。
だって有川くんが本気だと言った気持ちは、言葉に行動がそぐわないもの。