吐き出す愛


「……っ!」


 ――ズキン。

 そんな初めて聞く音が耳元で弾けるのと同時に、今までの比ではない苦しさと痛みが身体の中心部を襲った。

 全力疾走をしたあとのような息苦しさに耐える中、視線の先では2人の唇が何度も離れたりくっついたりする。

 有川くんの背中に回された細い腕。女の子の頭を引き寄せる大きな手。

 それを確認したあと、私はやっとの思いでその姿から目を逸らすことが出来た。
 そしてそのまま、ずるずるとその場にしゃがみこむ。

 ズキンズキンと鳴り続ける胸を制服の上から掴み、私は息を整えようと大きく息を吸ったり吐いたりした。

 そうしてやっと落ち着いた、呼吸と鼓動。

 唇を噛み締めてぎゅっと強く瞼を閉じると、何だかとても、自分がちっぽけな存在に思えた。


「……馬鹿、だなあ」


 今日はどうも、とことんタイミングが悪すぎるみたい。

 さっきのトイレの会話も、今のキスシーンも。
 全部最初から分かっていたのに、気にしないようにしていたときに限って姿を現すのだから。

 しかも有川くんが女子とデートしたり密着する光景は見たことがあったけど、さすがにキスシーンは見たことがなかった。

 だから……なのかな。
 自分がこんなにも動揺するなんて、思ってもみなかったよ。

 有川くんが軽い人なのは知っていたけど、さすがにこれはきつい。

 決定的な何かが、私の中で動いた気がする。

 溜め息を落とすと、冷たい床から自分に跳ね返ってくるみたいだった。


 ……ねえ、有川くん。

 私、あなたの本心が分からないよ。
 だって有川くんが本気だと言った気持ちは、言葉に行動がそぐわないもの。


< 83 / 224 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop