吐き出す愛
思えばトイレでの女の子たちの会話もその噂によるものだったから、やっぱり今日はついてない気がする……。
「……はぁ」
有川くんと一緒に教室を出る際にこっそりと吐いた溜め息は、掃除を終えたクラスメートたちのざわめきに、呆気なく掻き消されていった。
ごみ置き場の場所は、校舎の北側にある体育館の裏手だ。
そこに行くには校舎内を律儀に歩いて行くよりも中庭にある通路を通った方が近道で、もちろん今もそこを2人で歩いていた。
ただその途中、私の胸だけがズシッとした重さを感じている。
だって中庭と言えば、有川くんが女の子とキスしていた場所だし……。
そう意識すると、胸の重さが歩みを進める足にも伝染した。
ただでさえ有川くんの隣を歩く気分になれなくて遅かった歩みが、さらにスピードを落としていく。
1歩、2歩、3歩……と、どんどん距離が離れていく。
有川くんの背中が、遠い。
「佳乃ちゃん、俺、何かした?」
遅い足取りで何とかごみ置き場に辿り着き、ごみ袋をそれぞれの置き場に置いた直後。
ここに来るまでずっと黙りだった有川くんが、低い声でそう問いかけてきた。
少し苛ついた様子で私に向けられた、色素の薄い瞳。
それはすでに何もかも見透かしていそうで怖くなるけど、素知らぬフリをして答える。
「……何の話? 別に有川くんは、何もしてないと思うけど」
「惚けんなよ。じゃあ、何でさっきからまともに俺の顔を見ないわけ? ここに来るまでも俺とわざと離れて歩いてるし、何か理由があるとしか思えねーよ」
「それ、は……」
ここで動揺すれば、有川くんの言葉を肯定するようなもの。
それは分かりきっているのに、嘘を吐いて返すことも出来ずに言葉に詰まってしまった。
……ダメだ。
有川くんは私の態度の変化に完全に気付いている。