吐き出す愛


「おい、有川! これ持って行くの手伝ってやれ」


 先生は私の手から1つごみ袋を盗むと、近寄ってきた有川くんに差し出した。

 私と有川くんの目が同時に丸くなる。


「せ、先生! これぐらいの袋なら、1人で持って行けますよ!」


 有川くんと2人きりになることは、今は避けたかった。
 こんな重い気持ちのまま、平然と一緒に居られるはずがない。

 そんな思いから必死に先生に訴えるけど、その努力は無駄に終わった。


「いいんだよ、高崎。有川は授業をサボったんだから、掃除の時間ぐらい働かせないとな!」


 先生は有川くんの肩を叩きながらごみ袋を押し付ける。
 有川くんは今にも文句を言いそうな表情をしていたけど、さすがに引け目があるのか黙って受け取っていた。

 ……っていうか、先生。
 それならいっそ、すべて有川くんに持たせてほしいんだけど。

 これぐらいのごみ袋なら、有川くん1人で十分持てる量だし。

 とにかく有川くんと一緒に居たくなかった私はうんざりしながら先生を見る。
 するとやけに、にっこりと笑って返された。


「ほら、さっさと2人で仲良く行ってこい」


 仲良くって、まさか……。

 先生の意図が微かに分かったような気がして、分かりました、と返事をした口元が引きつった。

 たぶん、先生も知っているんだ。
 最近広まった、“有川智也は高崎佳乃が好き”という噂を。

 有川くんはどうやら友達に、私が好きだということだけは話したみたいで。
 いつしかそれは有川くんの広い人脈を通じて噂となり、気が付くと私は一番なりたくなかった注目の的になっていたんだ。

 それだけ生徒の間で広まった噂だ。担任の先生なら、それを把握していたって不思議ではない。

 だからこそわざわざ余計なおせっかいをしたんだなって、……そう思った。


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