吐き出す愛


 卒業アルバムをカバンにしまう。そして手持ち無沙汰になると、また自然と目が外の人の動きを追っていた。

 校舎から人の気配が消えていくように、グラウンドに残っている人の姿もまばらだ。

 一番大きな人の塊が、楽しそうな笑い声と共に校門に向かって歩き出す。

 その真ん中に居るあの人も、一度もこちらに振り返らずに進んでいく。
 私とは違うタイプの人達を引き連れて、私には入り込めない世界へ歩いていくんだ。


 ……振り出しになんて、戻れるわけなかったね。

 彼はもう、私を見ることもない。
 それでも私はこの期に及んで、避けていたはずの有川くんの後ろ姿を追いかけている。

 こんなの、振り出しに戻ったわけじゃない。
 私が一方的に振り出しに戻ってほしいと願っていただけ。

 しかもその往生際の悪い願いさえ、叶わなかった。

 だって短い間だったけど、有川くんとの思い出を得すぎてしまった。その記憶をなかったことになんて出来ない。

 2人で過ごす楽しさも、不意に訪れるドキドキも。胸の息苦しさが残した傷も。
 すべて有川くんと関わって得たものは、忘れたくても忘れられないのだから。

 おまけに有川くんと関わらなくなって、胸にポッカリと隙間が出来た。
 その隙間に何があったのかなんて、もう私には分からない。

 ただ……痛いんだ。
 失ったものを探し求めるように、隙間が悲鳴を上げているみたい。

 どうしてだろう。こんなのおかしいよね。
 有川くんを振ったのは私なのに、まるで傷付いてるみたいだなんて……。


 遠ざかる背中を見て、唇を噛み締めた。
 見慣れてしまった姿を目に焼き付けながら、ぽつりと声を漏らす。


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