「涙流れる時に」
「美弥。美弥・・・」

恭平は美弥を起こす。美弥は慌てて起き上がるも、何もできない・・・

「ごめんなさい。家のこと・・・全然できなくて。」

牧村の自宅は荒れ果てていった。朝、自分を送り出した後の部屋は見違えるようだった。

るみ子に聞くまで、その原因が自分にあったなんて気が付かなかった。

「バレたのか・・・」恭平は美弥を前に、全身が脱力していった。

「美弥・・・実は・・・」

「信じてたのに。」美弥は涙が止まらないばかりか、激しく部屋を荒らし始めた。

「落ち着いて。」恭平は力ずくで止めるも、美弥は聞かない。

「なんで・・・なんで・・・」と発狂しながら荒れ狂う美弥。

手当たり次第、物を投げつける美弥に、恭平も次第に危険を感じた。

閑静な住宅街にサイレンは鳴り響き、車は牧村の家に着いた。

とうとう、手に負えず救急車を呼んだのだ。「あの奥さんがね・・・」周囲は騒然となり、そんな声も聞こえる。

「どうしたらいいのか?」恭平は主治医の斉木にも連絡を入れた。

「何があったんです?」斉木の声に恭平は、動揺が隠せない。「妻に浮気がバレました・・・」

そんなことは言えない・・・今は・・・。

「美弥。美弥・・・」美弥のお母さんも駆けつけ

美弥は病院に運ばれた。「極度に興奮しています。しばらく入院です。」斉木からだった。

恭平は美弥をまた闇に葬ってしまったんだ。そんな自分にひどく落ち込んだ。

美弥の悲痛な叫びは夜間になっても病棟に響く。

「俺は終わった・・・」浮かれていた自分の心に釘を打たれたような・・・そんな痛み

「るみ子・・・。」恭平の想いは届かぬまま月日は流れていた。


るみ子の部屋もまた、荒れていた。

カーテンを閉めきった薄暗い部屋で、るみ子は一人孤独だった。

「逢いたいよ・・・」それでもるみ子はまだ恭平を想いつぶやいていた。

もう逢えないことを知っていてもそう叫んでしまう・・・部屋からは何やら異臭も放つようになり

「沢田さん・・・そろそろお願いできますか・・・」

管理人はとうとう、るみ子に退居するように命じた。

< 22 / 27 >

この作品をシェア

pagetop