「涙流れる時に」
一週間後・・・

「沢田さん・・・退職したんだってー。」社内はザワザワと、噂話は恭平にも届いた。

るみ子はその後、会社を自主退職した。牧村との不倫は、るみ子の退職と共に社に広まっていった。

「るみ・・・・」唖然とする恭平は何もできない。

それを受けて、

恭平は系列の子会社に移動となった。。惨めだった。美弥の母親にこっぴどく叱られ、

恭平はようやく目が覚めた。病室に毎晩訪れる恭平は、働き盛りのハツラツとしたあの頃とは変わって

頬もこけ、痩せていた。「いつまで続くのか・・・。」深い溜息と妻の看病。疲れきっていた・・・


「あなた・・・。」皮肉にも、美弥は浮気の末、自分に戻ってきた恭平を許すことはできない。

しかし・・・美弥の中に眠っていた、嫉妬心や独占欲が目覚めた。無性に恭平の心も体も支配したくてたまらない。

それは露わに、病室でも体を求めた。毎晩・・・毎晩・・・美弥は今までの時間を取り戻すかのように恭平と肌を合わせていく。

「いなくなったら、死んじゃうから。」そう言って恭平を脅す。

「大丈夫だよ。」恭平は愛おしさというより、今は、終りのない妻の執着心に必死に答えるしかなかった。

美弥の感じる顔は半ば私に対する戒めなのか・・・

「そんなにあの女が良かった?わたしじゃダメなの?」そんなことを言っては、ここぞとばかりに淫らに感じている。

「あの女か・・・」恭平は2人の女を思い浮かべていた。るみ子と百合のことを。

美弥が知っているのは、るみ子だけ。るみ子の感触は徐々にかき消されていくも、百合は違った。

百合のあの感触。恭平は美弥が求めて来ない日は、一人、百合を想って自慰してしまう。

「もう会えないないのか・・・」

恭平は途方に暮れて、病院の屋上で空を眺めていた。

「もうすぐ今年も終わるな・・・。」その年は恭平にとっても慌ただしい1年だった。

「先生・・・」車イスを押しながら美弥の主治医 斉木を見つけた。

「牧村さん。」斉木はある女性を車イスに乗せていた。

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