さみしがりやのホットミルク
「あ、の、ひとは?」

「え?」

「あの人……昔、オミくんと、一緒にいた……」

「……ああ、伊月のこと?」



テーブルにマグカップを置いたあたしの問いかけに、オミくんが目を瞬かせる。



「伊月も、組の人間だよ。俺の世話係みたいなものも任されてたけど、それ以外は、普通に外の仕事にも行ってたみたいだし」

「……そう、なんだ……」



あの、大人の人。伊月さん。

はっきり顔までは、思い出せないけど……それでも、やわらかい物腰ととても丁寧な言葉遣いが、ぼんやり、印象に残っている。

あの人も、“やくざの人”、なんだ……。


そして──オミくんはいずれ、そのトップに立つ人。

平凡に生きているあたしからは、とても、遠い、人。



「ずっと、黙ってて悪かった。……佳柄には、言えなかったんだ」

「………」

「このことを、話して……もし、嫌われたらって。もう一緒にいられなくなったらって、思うと」



……こわくて、言えなかった。


そうつぶやきながらオミくんは、うつむいていた顔をあげて、あたしの方に視線を向けた。

そして、目が合った瞬間。不意に、その表情が苦しげにゆがむ。
< 101 / 144 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop