さみしがりやのホットミルク
「……俺は、あの家に生まれて。小さい頃から、将来自分が組を継ぐことに、何の疑問も持たずに過ごしてきた。……ケンカを、するようになったのも……中学の頃カツアゲしてきた高校生を返り討ちにしたら、それ以来、なぜかよく絡まれるようになって。それだって別に、自分はあんな家の人間だから、特に気にしてなかったんだ」

「………」

「けど、その気持ちは……だんだん、変わってきて。年を追うごとに、自分のところの家業がどれだけ特殊なのかも、理解できるようになったから……俺は、少しずつ、迷うようになった」



ぎゅっと、オミくんが、自分の組んだ手に力を込めたのがわかる。

相変わらず視線を落としたまま、彼は続けた。



「……あの日は、学校から帰ってきて、父さんの部屋の前を通りかかったんだ。障子の向こうから、父さんと母さんの、話し声が聞こえてきて……近いうち、俺に“仕事”を覚えさせるかって、話してた」

「し、ごと……」

「……それを、聞いて。俺、急にこわくなったんだ。いくら、うちが仕切ってるおかげでこのあたりの治安が保たれて、商売がうまくまわってるんだって教えられても……そんな、綺麗事ばかりの世界じゃないってことは、わかってたから」



──だから、あの家から、逃げた。

そう言ってオミくんは、深く、息を吐く。
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