ファインダーの向こう

Chapter3

「くそ、こんな時に……」


 先程までの雑然とした雰囲気の店とは打って変わって、捜査員に一掃された店内は静寂に包まれていた。店内に入った途端、右肩がひどく疼いて、逢坂は左手で無意識に押さえ込んだ。


 盗聴器を沙樹に手渡してから、逢坂は沙樹とルミの会話を一部始終聞いていた。


 途中で沙樹の音声が途切れ、不安と押し迫る焦燥感に逢坂はすぐにでも店に押し入りたい衝動を拳を握って抑えていた。けれど、逢坂は現場の写真を撮ることの代わりに、森本から全てが終わるまで店外にいることを条件に出されていた。ただ暗闇で固唾を呑んで息を潜めることしかできなかった自分に、逢坂は静かな怒りを感じていた。


 その時―――。


「逢坂さん、お役に立てそうなガサ入れ潜入写真は撮れましたか?」


 機嫌の悪い時に聞く森本の妙にスカした声音は癪に障る。眉間に皺を寄せながら逢坂は小型カメラをポケットにしまいこんで振り向いた。


「あぁ、来週の「peep」楽しみにしとけよ」


「もしかして、先ほどの彼女を探してます?」


「……だったらなんだ」


 あからさまに機嫌の悪い逢坂だったが、そんな姿さえ見慣れていると言わんばかりに森本が小さく笑った。


「VIP席で寝てます」


「は?」


「どうやら、神山に睡眠薬を飲み物に盛られたようですね。ガサ入れなんて、あまりいい光景ではありませんから、こちらとしては都合がよかったのですが……」


 奥の天蓋がかかっている席に目を向けると、沙樹が背もたれに寄りかかってうなだれているのが見えた。森本から寝ていると聞かされていなければ、柄にもなく慌てて駆け寄ったかもしれない。そう思うと、どっと安堵が押し寄せて逢坂は深いため息をついた。
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