ファインダーの向こう
「っ!?」


 不意に腕を引かれてバランスを崩すと、それを受け止めるように逢坂の腕が背中に回された。


「あい、さか……さん?」


 抱きすくめられながら密着する部分が熱を増していく。今にも飛び出しそうな心臓を、何度も呑み込むと、沙樹はゆっくり顔を上げた。


「お前にとっちゃ、愚問……だったな」


 ただ一点を凝視する逢坂の視線は、なにか思いつめたような切なさを含んでいるようだった。


「お前は先生の大切な娘だ。だから、俺が守ってやる」


「え……?」


 ―――お前は先生の大切な娘だ。だから、俺が守ってやる。


 その言葉が沙樹の胸にチクリと刺さった。


(逢坂さん……守るって、それは義務だから?)


 沙樹は回された逢坂の腕を掴むと、ぐっと力を込めた。成り行き上で交わした口づけの記憶が、沙樹の胸を締め付けたその時だった。


(これは……)


 逢坂の晒す右肩に、鋭利な刃物で傷つけられたような古傷を見つけて沙樹は息が止まった。その傷は既に完治しているように見えたが、いつまでも逢坂を苛む元凶のように思えた。そして、逢坂は沙樹に傷口を見られていると察してか、そっと左手を被せて隠してしまった。


(私は、逢坂さんのこと何も知らない……だからもっと知りたい)


 沸き起こる得体の知れない感情に、沙樹はまだ気づかぬふりをしていた―――。
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