ファインダーの向こう

Chapter2

「倉野さん、こんな時間までお仕事ですか? もうみんな帰っちゃいましたよ? オレ、また波多野さんとすれ違っちゃいました」


 新垣は口を尖らせると、沙樹の周りに散らばっている原稿に目を落とした。


「なにか調べ物ですか?」


「……うん、ちょっとね」


「会社の外から資料室に明かりがまだ点いてるのが見えたんです。もしかしたら倉野さんかなーなんて思ってたらビンゴでしたね」


 今までと変わらない様子の新垣に、沙樹は人知れず安堵した。


(新垣君が……“渡瀬会”と繋がってるなんて、そんなわけないじゃない)


 そう自分で言い聞かせながらも、胸の中の小さな黒いシミの存在が沙樹を不安にさせた。


「倉野さん、もしかしてまた“渡瀬会”のこと、調べてます?」


「え……?」


「もう近づくなって言ったでしょ?」


 一際強い口調に沙樹は新垣に視線を向けた。新垣は手に記事を取り、表情を曇らせている。あまり見せない険しいその表情に、沙樹の胸がざわつき始めた。


「そういえば新垣君、里浦隆治の記事すごかったね! 波多野さんも感心してたよ、自分よりも情報が早いって」


「え……」


 なんとなく新垣の空気が変わったような気がして、沙樹は気まずくなる雰囲気を振り払うように、言葉を並べていく。


「……そうですか」


「うん、どこのマスコミよりも新垣君が一番早かったもの」


 これ以上余計なことを喋ってはいけない。そうわかっているのに、落ち着かないこの雰囲気のせいか沙樹の口からその場しのぎのような言葉が連ねられる。


「私も里浦隆治のことは気になってたから、新垣君が―――」


「やめてください!!」


「っ!?」
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