ファインダーの向こう
 耳を劈くような新垣の怒鳴り声に、沙樹は一瞬心臓が止まった。その声が耳の奥でいつまでも反響して、沙樹は微動だにできなかった。新垣は唇を噛んで手にした原稿をぐしゃりと握り締めたまま一点を見つめている。


「ど、どうしたの?」


「……すみません、大きな声出して」


 その時、沙樹の第六感が新垣がなにか隠していることを告げた。沙樹は唇を湿らせると、意を決して口を開いた。


「新垣君……“渡瀬会”と関わったりしてない……よね?」


「え……?」


 新垣は明らかな反応を示した。沙樹は新垣が嘘を誤魔化せない性格だと知っていて尋ねたその性根に、狡猾な自分を見た気がした。


「ど、うして……そう思うんですか? やだな、オレがあんなヤバイ連中と―――」


「じゃあ、私の目を見て」


「っ……」


「なにもないなら……私を見て、新垣君」


 その時、沙樹の願いとは裏腹に、真実を求める瞳の力強さに耐えかねた新垣が自嘲気味に笑った。


「沙樹さんは相変わらず勘が鋭いっていうか、絶対警察関係の仕事の方が向いてますよ、行き止まりの袋小路に追いやられた気分ですね」


「な、なに言って―――っ!?」


 新垣の視線がギラリと光って、嫌な予感を覚えたあと、新垣はいきなり沙樹の手首を掴んで自らの胸元に引き寄せた。


「にい、がき……君?」


 ふわりとフレグランスの匂いが怪しく香って、沙樹の思考を狂わせようとする。


 その時、一瞬逢坂の姿が脳裏に浮かんだ。逢坂の香りと違う匂いに包まれ、じわじわと虫酸が走る感覚に、沙樹は新垣の胸を突っぱねようとした。


「や、やめて!」


「オレを拒まないでくださいよ、ずっと知ってたでしょう? オレが倉野さんのこと好きだってこと、ずっと見てたのに……見て見ぬふりなんて、ひどいですよ」


「あ……んっ!」
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