ファインダーの向こう
「逢坂さん……」


 素早くシャツを脱ぎ捨てた逢坂の裸体が、沙樹の目の前に晒される。そして、右肩に刻まれた傷に思わず視線を向けてしまう。


「この傷……気になるか? 実は……俺にもよくわからない」


「え……?」


 拍子抜けした沙樹の声に、逢坂は肩の傷を見ながら自嘲気味に笑った。


「この傷がどうやってついたのか、いつついたのか……全然記憶がない、痛みを感じるはずのない傷痕なのに、たまに疼いて俺を悩ませる」


 すると沙樹は、上半身を起こしてその傷痕をじっと見つめ、慰めるようにそこに口づけた。


「っ!? な、なに……を」


「痛くならないおまじないです」


「ば、馬鹿……や、やめ……っ」


 引き離そうとした沙樹の肩にぐっと力がこもって、逢坂が切なげに眉を歪めた。お互いの汗で、しっとりとした肌が吸い付き合ってその心地よさにうっとりとなってしまう。


「もしかして……感じてますか?」


「く……お、お前っ」


 眦を上げた逢坂の表情が沙樹をもう一度押し倒して見下ろすと、息もできないくらいの口づけが落とされた。


「んっ……あ、は……逢坂さん」


「沙樹……」


 情熱的なキスを交わし、頭の中が真っ白になっていく感覚の中、沙樹の胸には小さな風穴が空いていた。


(逢坂さん……好きって、私のこと好きだって言ってよ……嘘でもいいから、今だけは……)


 艶かしい水音が響く部屋の中で、与えられる甘さに恍惚となりながら、切なさを噛み締めていた―――。
< 144 / 176 >

この作品をシェア

pagetop