ファインダーの向こう
 荷物を運び込んでいる商人たちは、時折周りを気にしながら買い手が現れるのを待っているようだった。おそらくその人物は渡瀬光輝に違い。逢坂は眉を潜めながらその様子を窺って、無意識に胸ポケットに手を伸ばしてはっとした。


「何してんだ、俺……」


 こんな状況だからか、逢坂の中にまだ残っていた刑事としての感覚が、無意識に身体を動かそうとしていた。皮肉にも、そのポケットにあるのは警察手帳ではなく、ただのカメラだった。そして数年前、峰崎埠頭で逢坂の執念が絶たれた瞬間を思い出した。


 ―――残念だったね、透兄さん……。


「そこにいるのは誰だ!?」


「っ!?」


 ―――油断した。


 逢坂は一瞬でも雑念に囚われた自分自身に舌打ちをして、重くため息をついた。


「別に、違法入国と違法物運搬の見学してるだけだよ」


 逢坂は逃げも隠れもせずに、そのまま商人たちの前に両手を軽くあげて姿を現した。逢坂は目を厳しく細めて商人たちを見据えた。


「警察か?」


「ま、まさか……俺ら渡瀬さんに嵌められたんじゃ」


「残念ながら俺はしがないカメラマンだ。ったく、罪を犯してビビっんなら最初からやめとけばいいだろ」


 逢坂は積荷から僅かに溢れでているものを親指と人差し指で摘んで擦り合わせてみた。


「やっぱりな……」
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