ファインダーの向こう
 その植物片は乾燥しているため擦り合わせるとパラパラと粉末状になった。そして、怪しく香ばしい匂いが立ちこめ、気を抜くと意識を持って行かれそうになってしまう。


「相変わらずいい匂いだな」


 甘い蜜も度が過ぎると毒になる。心地よいその匂いが中毒性を意味していた。この香に毒されて、溺れていった人間を逢坂は何人も見てきた。


「いくらだ」


「へ?」


「いくらで取引するつもりだったんだって聞いてるんだよ」


 逢坂が低い声で言うと、商人たちは互いに顔を見合わせて狼狽え始めた。


「半年くらいはまともに生活できる値段で取引することになってる」


「あぁ、そうか……じゃあ、これで足りるな」


 逢坂はコートの内ポケットから札束を無造作に放り投げた。バサリと音を立てて散ると、雪が紙幣に染みを作り始めた。


「あぁ~!」


「お、おい! お前、独り占めする気か!? 山分けだぞ」


 札束に群がる商人に、逢坂は汚らわしいものでも見るかのような視線を送って煙草に火を点けると、胸に旨みを吸い込んだ。


「こっちは取引相手が誰だって構わねぇんだ、この金さえあれば当分は暮らしていけるぜ」


「どこの誰か知らねぇが、お兄ちゃんよ……こんな葉っぱ手に入れてどうすんだよ?」


「……燃やす」


 商人たちの表情が固まったと当時に、逢坂は吸っていた煙草を人差し指ではじくと、まだ火種のついた煙草が、放物線を描いて積荷の中へ飛び込んでいった。


「もう二度とこの国の地を踏むなよ? わかったらとっとと失せな」


「ひっ!?」


 乾燥していただけに、雪が降っていてもそれは真っ赤な炎を揺らしてよく燃えていた。商人たちはその光景に呆然となっていたが、氷塊のような逢坂の冷たい目に小さく悲鳴をあげて、そそくさと船舶に乗り込んでいった。


 その時―――。
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