ファインダーの向こう
 普段フレンチなど食べ慣れないせいか、沙樹は心なしか緊張していた。それとは逆に、正面には優雅な仕草で、先程ソムリエが注ぎにきたワインを堪能しているルミの姿があった。


(それにしても……あの新宿で会った人、よく顔がわからなかったけど―――)


 あの時の光景をなんとなく思い出す。けれど、何度反芻しても顔が思い浮かばなかった。あの時、里浦を追っていたら今頃どうなっていたか、と沙樹が無意識に想像していると、怪訝な顔でルミが沙樹の顔を覗きこんで言った。


「どうしたの? さっきからワインに手つけてないけど、もしかしてワイン飲めない?」


「う、ううん。違うの、ちょっと考え事してて……ごめんね」


 そう言っている間に次々に料理が運ばれてきて、その食欲をそそる匂いに、妙な雑念も吹き飛んだ。


「これ美味しい!」


「でしょ? きっと沙樹もここの店、気に入ってくれるんじゃないかなぁって思ったんだ」


 メインの鴨肉を口に入れたとたん、ジューシーな肉汁が広がった。


「たくさん食べて、今夜は私の奢りだから」


 片目を瞬いてルミがにこりと笑った。


「え……? いいの? なんか悪いよ……」


「いいのいいの、今夜呼び出したのは私なんだから、気にしないで。それよりさ……」


 ルミがバッグをごそごそと漁って取り出したのは、一本のDVDだった。


「これって、ルミが今主演してるドラマのDVD?」


 まだ未発売のものだったが、ルミの厚意で沙樹はそれを受け取った。DVDのジャケットには里浦とルミが今にも唇が触れそうな位置でポーズを取っている。



 里浦隆治―――。
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