ファインダーの向こう
 熱めのシャワーを浴び、全身がシャキッとしたところで、テレビがまだつけっぱなしになっていることに気がついた。その場を離れる時は、ちゃんとテレビや電気を消すようにしょっちゅう母親に注意されていたことをふと思い出した。


(そういえば、最近連絡してないな……お母さん、元気かな)


 沙樹の母親は父親が事故で死んでから、田舎で一人暮らしをしている。連絡が億劫になっているのは、電話で話すたびに、早く結婚して安心させて欲しいと小言を言われるからだ。


「あ……ルミだ」


 テレビを消そうと、リモコンを手にした時、沙樹の幼馴染である神山ルミが出演しているドラマのCMが流れた。


 神山ルミは、モデル出身の人気女優で、沙樹の小学生時代からの唯一親友と呼べる友人だった。当時から小学生とは思えないスタイルに大人びた容姿をしていて、沙樹もそんなルミと友人でいられるということに鼻を高くしていた。けれど、ルミの取り巻き呼ばわりされて、沙樹は周りから嫌がらせを受けるようになった。ルミは自分のせいで沙樹が苦しんでいることに苛んでいたが、沙樹はそれでも友人でいたかった。そうでもしなければ自分は独りになってしまうと、その頃はそんな風に思っていた。


 その時―――。
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