ファインダーの向こう
 携帯を切ると、再び朝の静けさが戻ってきて安堵する。


「っ……!」


 その時、ズキリと右肩に痛みが走ったような気がした。


 怪我や病気などで失ったはずの腕や足が痛む幻肢痛というのがある。逢坂の右肩にある切り傷はとっくの昔に治癒してうっすらと痕が残っているくらいだったが、時折こうして疼くことがある。ファントムペインとも呼ばれているが、いつ、どこで怪我をしたのかも記憶がないのに疼く傷痕が、不気味でしょうがなかった。


 一番疼きがひどく感じられたのは、里浦をホテルで見つけた時だった。


「くそ……」


 思い出したくもない人物に逢坂は頭を乱暴に掻くとふと、なぜか沙樹のことを思い出した。


「写真は絶対に嘘をつかない……か」


 ごろりとベッドに寝そべって、両手を頭の後ろで組み、ぼんやりとする。


 ルミと里浦がホテルの前にいる時、確かに逢坂は沙樹の動揺と躊躇と葛藤を感じた。そして、受け入れることのできない事実に沙樹は震えながら目を背け愕然としていた。そんな沙樹を見て逢坂はあの時、無理矢理にでも事実を突きつけてやりたい衝動にかられた。


 逢坂ちゃんは見かけより案外善人なんだね~―――。


 その時、先ほどの波多野の言葉が脳裏に聞こえてきて、逢坂は顔を顰めると寝返りを打った。


「そんなわけないだろ……馬鹿」


 ボソリと独り言ちると、そのまま眠りの淵へ落ちていった―――。
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