ファインダーの向こう
「これって……逢坂さんの作品なんですか?」


「見りゃわかるだろ」


(そ、そうなんだけど……)


 見覚えのある光景のその写真は、沙樹が失意の中、廃屋ビルで見た朝焼けと同じものだった。


(やっぱり、逢坂さんは……あの朝焼けを知ってるんだ)


 そう思うと、沙樹は内心小躍りするような気持ちになって口元を歪めた。


「逢坂さんって、元々写真家だったんですか?」


「……いや、写真はただの道楽だ」


「……綺麗ですね、だからあのビルの屋上が好きなんですね」


 沙樹が言うと、逢坂は一瞬驚いた表情をしたがすぐに消えて無表情になる。


「お前、なんでこんなとこにいるんだ」


 逢坂はぶっきらぼうに言うと、沙樹がこの場所にいるのが意外だと言わんばかりに、不思議そうな眼差しを沙樹に向けた。


「父の作品が展示されてるらしくて、その知り合いから招待されたんです」


「お前の父親っていうのは……」


「倉野隆です」


 すると逢坂は思いつめたような表情になり、しばらく一点を見つめて黙っていた。


「あ、あの……」


 なにか気に障ることでも言ってしまったのかと沙樹は不安になって声をかけたが、逢坂はなんでもない、というふうに首を軽く振った。


「あの……もし逢坂さん、時間があったら一緒に父の作品を見に行きませんか?」


「……は?」


「こういうのって、ひとりで見ても味気ないですし」


「味気ない……?」


 逢坂が眉間に皺を寄せると、目の前に逢坂の作品があることを思い出して沙樹は慌てて首と手を同時に振った。
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