ファインダーの向こう
(これがお父さんの写真……)


 タイトル 埠頭の朝焼け 撮影者 倉野隆。


 父親の写真を今までに一度も見たことがなかったわけではなかったが、こうして展示されているものを見るのは初めてで、沙樹は感慨深いものを感じていた。


 その写真はどこかの埠頭から撮ったものなのか、水平線と朝日がうまい具合に同調していて、朝日で白んでいく空のコントラストが美しかった。


「これがお前の父親の写真か?」


「はい、なんていうか遺作なんですけど……」


「そうか……」


 逢坂が目を細めてその写真を眺めた。写真を見つめながら何を想っているのか、その横顔からは窺い知ることはできなかった。


「逢坂さん、あの……先日はありがとうございました」


「なんのことだ」


 なんの脈絡もなく沙樹が言うと、逢坂が沙樹に向き直った。


「写真を抑えてくれて、私に……事実から目を背けるなって教えてくれて感謝してるんです」


 逢坂が撮り損ねたネタの写真を撮ったのは、自分の失敗をフォローするためではないことに沙樹は気づいていた。


 写真は絶対に嘘をつかない。沙樹は波多野からルミと里浦の写真を受け取った時、この事実から向き合うことを決めた。そして、どんな現実でも受け止める強さを持つことを知った。


「……いい顔になってきたじゃないか」


 逢坂がニヤリと笑ったその時だった―――。
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