ファインダーの向こう
 焼きそばパンをかじると、新垣はテーブルに前のめりになって沙樹の顔を覗き込んだ。


「なんで知ってるの? って顔してますね、決まってるじゃないですか、編集長ですよ」


(やっぱり……)


 誰だろうかと考えずとも、吹聴するのは一人しかいない。


「う、うん……コンビっていうか、この前たまたま一緒に仕事しただけ」


「最新号の神山と里浦の記事の仕事? あれ、よく撮れてますよね~さすが逢坂さんですよ。それに倉野さんの記事にも興味そそられました」


 新垣はひとりでうんうんと頷きながら、ごくごくと牛乳を飲んだ。


「前に新垣君、逢坂さんがターゲットを追ってる時、獲物を捉えた鷹の目みたいって言ってたじゃない? もしかして、私も……それ見たかも」


 沙樹は逢坂が里浦を凝視する鋭い双眸をふと思い出した。ゾクリとして思わずあの時は言葉を失ったが、沙樹は何故そんな目を里浦に向けるのかが気になっていた。


「えっ? 倉野さんも見ました? あんな目で睨まれたらチビりますよオレ」


 新垣はわざとらしくぶるぶると震える仕草をして縮こまった。


「逢坂さんって、里浦隆治を追ってるみたいだけど……どうしてか知ってる?」


「う、う……ん」


 沙樹が言うと、新垣は途端に歯切れが悪くなって目を逸した。そのわかりやすい態度に、“何かある”と、沙樹の第六感が告げた。


「里浦は逢坂さんにとって、唯一の尻尾なんですよ」


「尻尾?」


「その尻尾の先にあるものを追ってるっていうか……。オレ、できれば倉野さんには逢坂さんと一緒に仕事して欲しくないんです」


「どういうこと……?」


 先程から新垣が言っている意味が分からず、沙樹は食事をする手を止めた。
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