ファインダーの向こう
「逢坂さんが単独で行動しているのは、危ない橋を渡ってるからなんです。その尻尾の本体がなんなのかはオレもよく知らないんですけど……でも、逢坂さんと一緒に仕事するのはあまりお勧めできないっていうか……」


「どうして……?」


「そ、れは……」


 伏し目がちの新垣の目はどことなく泳いでいる。探れない情報は自分で探ればいいと、沙樹は堂々巡りを断ち切って話題を変えることにした。


「そういえば私ね、この前写真の展示会に行ってきたの」


「あ、それって先週末やってたやつですよね? 行きたかったな~、オレちょうど仕事してて行けなかったんですよ」


 話の方向がずれて安心したのか、新垣は勢いよく顔を上げた。


「もし今度また展示会あったら、その時は一緒に行ってくれますか?」


「え……?」


(もし、展示会があったら……今度私が一緒に行きたいのは……)


 その時、ふと沙樹の脳裏に逢坂の姿が浮かんだ。写真について色々ふたりで語り合えたらと想像する。


(な、なんで逢坂さんのことなんて考えてるの!)


「あ、あのー倉野さん?」


「へ?」


 ブンブンと首を左右に振って、逢坂の幻想を霧散させると新垣が不思議像な顔で沙樹を見つめていた。


「な、なんでもない! ごめんね、私仕事に戻る」


「あっ、倉野さん!」


 沙樹はトレーを返却すると、新垣に手を振りながら慌ただしく編集室へ戻っていった。


「まだ、一緒に行ってくれるか返事聞いてないのに……」


 その場に残された新垣がそんな沙樹に、小さく鼻を鳴らした―――。
< 69 / 176 >

この作品をシェア

pagetop