雨の日は、先生と

卒業

二週間なんてあまりにもあっという間で。

気付いたらもう、卒業式の前日だった。


持って帰らなければいけない荷物も、たくさんある。

それなのに、今日までそのままにしてしまった。


学校なんて、嫌いだった。


先生なんて、大っ嫌いだった。



行き過ぎた指導で、私の秘密を知った担任のこと、許せなくて。



だけど、先生に会えたから。

天野先生に会えたから。

私はまた、教室に戻れたんだよ。



卒業式に、みんなと一緒に卒業できることは、私にとって奇跡なのかもしれない。



ねえ、先生。

もし叶うなら。


放課後の数学科準備室で、もう一度語り合いたいよ。





先生と出会った日のこと。


一緒に行ったラーメン屋さん。


冷たい夜に、ストーブにかざした手のひら。


初めて先生の家で過ごした二晩。


ちょっと太り気味の、たまの温もり。


触れるだけのキス。


素っ気ないメール。


一緒に食べたスパゲッティ―の味。


空を仰いで泣いていた先生。


悲しいクリスマス。


さよならの涙。


校長室での横顔。



忘れるはずないよ。

全部、覚えてるよ。



先生が話してくれた、どんな小さな話も。

仕草も、何もかも。



覚えてるよ。



愛されるということを、教えてくれた先生。

同時に先生は、「愛する」ということも教えてくれた。


人に愛されるためには、まずは自分がその人を愛さなければいけないんだと。


この胸いっぱいの、愛するという気持ちをくれた。




そして、何度も何度も、私を救ってくれたね、先生―――




卒業したら、私はもう、先生のことを先生とは呼べなくなるのかな。

もしも、いつか。

道でばったり会った時。

一体、どんな顔をしてすれ違えばいいのかな。




先生のこと、好きでいてはいけないって、分かってる。

いつか、忘れなくちゃいけないことも。


だけどね、先生。


忘れる努力なんて、しないよ。



時が経って、自然に忘れられるまで。

私は先生のこと、好きでいるよ。



それくらい、許して、先生―――
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