雨の日は、先生と
そして、テストの時期がやってきた。
これは、私たちにとって高校最後となる期末試験だ。
どの授業も演習ばかりで、テストもそういう形式だった。


先生のところに行けなくなって、だからテストもできないなんて嫌だ。

私は、数学が好きだって先生に言ったのに。

テストができなかったら、本当に先生に嘘をついていたみたいで。


もう先生が、私のこと気にかけてくれるはずもないのに。
私は一生懸命、テストの勉強をした。

進路だって何も決まっていなくて、将来のことなんて考えたこともないけれど。



だから、最後のテストでクラス最高点だった時は、本当に嬉しかったんだよ――



「笹森さん。」


久しぶりに先生に呼ばれて、教卓の前まで震える足で進んだ。


「よく頑張りましたね。」


すぐに覗き込んだ点数は、さっき先生が黒板に書いたばかりの、“最高点”で。
恐る恐る見上げた先生の目は笑っていて。
やっとやっと、先生に認められたんだと思って。
心の底から湧き出すような嬉しさが、抑えることのできないくらいの嬉しさが溢れ出す。


先生が、次の言葉を言うまでは――


「もう、補習は必要ありませんね。」


「えっ、」


さっと青ざめた顔で、漏らした声は、先生には届かなかった。

先生は次の生徒の名前を呼び、私は置き去りにされる。



ひどいよ。
先生、言ったよね。



「明日も明後日も、その次も。ずっと補習です。」

「私はどこにもいかない。巣立つのはあなたじゃないですか、笹森さん。」



言ったよね。


私がどんな思いで頑張ったのか、知らないくせに。
テストの点が良かったからって、そんなふうに……。


自分でも、理不尽だって分かってる。
先生の言ったことは、何にもおかしくない。


だけど、心がねじれそうだよ。

先生のこと、好きになればなるほど。

私にとって大事なことを、簡単に切り捨ててしまう先生が憎らしくなるよ。



先生に罪はないのに。

私はこんなに苦しんでいるのに、どうして気付いてくれないんだと、詰りたくなる。



94点と書かれたテストを、私は机の中でぐちゃっと丸めた。

こんな点数なんて、意味がないと思った。

だけど。

先生のことを嫌いになることだけは、どうしても、できなかった――
< 28 / 119 >

この作品をシェア

pagetop