雨の日は、先生と
第8章 雨の日は、先生と

デート

日曜日の朝、私はカーテンを開けた。

この間作った逆さまのてるてる坊主が、私を見つめている。


「嘘……。」


外は晴れ。
鳥の囀りまで聞こえる。


私は、足の力が一気に抜けてしまって、ベッドに崩れ落ちた。


昨日準備したお気に入りの服、ごめんね。
先生にあげようと思って、頑張って作ったバナナパウンドケーキ、ごめん。
お弁当に入れようと思った、無数のタコさんウインナーも。


「何で晴れるの。」


その囁きは、虚空に消えた。

余りにも悲しくて、涙がこぼれそうになる。


先生に、会いたかったのに。

雨の日は、先生と。



神様のばか。



逆さまのてるてる坊主を、思い切り睨んでやった。
だけど、てるてる坊主は笑っているばかりで。

嬉しくて嬉しくて、喜びを噛みしめながら描いた、そのままの顔。



その時、ケータイが光った。

開いて、思いがけない名前に胸がどきっとする。



「ようこ」



先生からだ。




件名:なし

本日は晴天なり。




もう少し残念がってくれてもいいのに、と先生を詰りたくなる。



Re:

とっても残念です。
たのしみにしていたのに。




ReRe:

天気予報を見ましたか?



え?と思う。
起きたばかりなので、天気予報は見ていなかった。


居間に降りて行って、帰ってきたばかりで眠っている母を起こさないよう、小さな音でテレビを付ける。



「今日の天気予報です。日中は晴れ、ところにより曇りでしょう。夕方から全域で雨の予報です。今日は傘を持って出掛けましょう。降水確率は、日中20パーセント、夕方から90%です。」



先生に返信しようとメールを開くと、また一件、先生からメールが入っていた。



ReReRe:

夕方から出かけましょうか。


私は、嬉しくて思わず大声を上げそうになり、口を両手で押さえた。



ReReReRe:

やったーーー!!



ReReReReRe:

夕方、5時ごろに公園で待っています。



ReReReReReRe:

分かりました!



諦めていただけあって、喜びは限りなかった。

また明日、学校で会えるのに。

それでも、先生とどこかに行くのは、ラーメン屋さん以外では初めてだったから。


それに、タコさんウインナーは自分で食べるとして、用意した服とパウンドケーキは無駄にならない。


嬉しくて嬉しくて、笑みが止まらない。


不思議だと思う。

今までの私は、こんなふうに心を波立たせることはなかったのに。
耐えることにも、悲しみにも慣れてしまったと、思い込んでいた。

だけど今、こんなに小さなことでも、私は浮かれたり、沈んだりする。
先生の名前を耳にするだけで、心臓が早鐘を打ち始める。

先生に出会って、私は弱くも強くもなった。

だけど一番の弱みは、先生を失うことで。

その弱みをすべて握っているのは、先生。



だけど、夕方が楽しみで仕方のない心は、どうすることもできなかったんだ―――
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