殺し続ける
俺は…俺は虐待されている人間だと思っていた。
だが、この少女よりは幾分も数倍も甘ったれた生活を送っている。
今なら、ビールを頭から浴びても、妄想に逃げることは無いのではないだろうか…と思う。
あの時は本気で腹が立ち、ケータイが鳴っているのにも気づかないくらい妄想にふけっていたのだが…。
「母親はどうしたんだ?」
ふと思った疑問だった。
だが少女は口を濁しただけで答えてはくれなかった。
ただ
「お母さんは、凄く凄く優しかったんだよ」
そう言った少女の顔は今まで見た笑顔の中で、一番本心からでた笑顔なのだと解った。
「…ついていってやろうか?」
俺は 何も考えずに言っていた。
「え!?いいよいいよします…お兄ちゃんは、いつも心配してくれるね。でも平気だよ!逃げちゃったサヤが悪いんだもん…ちゃぁんと怒られるよ」
少女はそう言って立ち上がり俺の前に立った。
「お母さんの次に、お兄ちゃんが優しいよ」
少女は、とびきりの笑顔を見せてくれた。
どこか寂しげにも感じ取れる笑顔だった。

帰って行く少女の背中を、ずっと見ていた。
少女の世界には、母親と父親と俺しか無いのだろうか…。
二番目に優しいのが俺なのは、父親みたいに殴ったりしないからではないのだろうか…

見つかったら殺されちゃうよ。
以前、少女が言っていたことが頭によぎった。
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