殺し続ける
俺は家の後ろに回っていた。
ドアを触って、向こうに気付かれたくはなかったからだ。
カーテンが締め切られてはいるものの鍵が壊れてしまっているのか、開いていた。

…そうだ。
手をのばそうとして、直前で手をひいた。
着ていた服の袖をのばして手を隠した。
指紋を残さないようにしなければならない。
俺は手を隠した状態で窓を開けた。
横にスライドさせると、キイィと軋んだ音がした。
俺は靴を脱いで入って行った。靴の足跡を残すより、靴下の方が良いと思ったのだ。そうして、俺は、少女の家に足を踏み入れた。

声の聞こえる方に、足を進めていく。
少女の叫びは、もう声になっていなかった。
「許して…ゆる……て」
「悪い子だから、お仕置きしてやってるんだ」
俺が玄関にたどりつくと、少女の上には汚らしい男が覆い被さっていた。
男は俺に気づいてはいない。だが、少女は目を大きく見開いて、俺を見た。
男は重そうな複雑な形をした、流木の置物を握っていた。
それで少女を殴ろうと、手を挙げる。
おそらく…俺が見るより前にも、それで殴られていたのだろう。

俺は、父親の背後に近寄り、あげられた手から流木を抜き取った。
振り返った男の顔には、驚愕の表情があらわれた。
「てめぇ…何だ!誰だ?」
「…。」俺は喋らない
「警察を呼ぶぞ!」
男が脅すように言った。
だが、俺は怯まない。
警察は俺の方が呼びたい。
幼い少女を、いたぶる奴なんか恐るるに足りない…。

俺は、奪った流木の置物で、男の顔面めがけて、ホームランを打つかのように振った。
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