彼女
いつもなら目が合ったかどうかなんて気にしたこともないのに。

「さーて撤収作業に取り掛かりますか、綾乃さん?」

風に吹かれて、彼女の髪が揺れた。

意地悪く笑った彼女は、缶に向かって走っていった。

太陽の光りで輝く彼女の髪は、より明るく見える。
それはとても美しいと思った。



昼休みの終わりのチャイムを聞いた私たちは、急いでそれぞれの教室に向かった。

彼女の教室は階段を上ってすぐのところにあるが、私はその教室を通り越してさらに二クラス分離れている。

彼女と別れて、私がやっとのことで教室に入ると、まだ教室はざわついていて、教師も来ていない。

ホッと胸を撫で下ろすと、忘れていた汗が一気に溢れ出してくるのを感じた。

顔をしかめながら自分の席に座ると、横から声が聞こえた。

「お前コントロール下手だな。」

私は誰にそれを言ったのか一瞬わからなかったが、すぐに思い当たって横を向く。

「なに、見てたの?」

茶色がかった髪に少し焼けた肌。

筋肉質な体で見るからにスポーツ少年な風格だが、黒の眼鏡がその印象を崩している。

以前、授業の時だけ眼鏡をかけるのを不思議に思った私が尋ねてみたら、「女はギャップに弱いから」という答えが返ってきた。

聞かなければよかったと後悔したのを覚えている。

「しかも二回ともはずしてたし。」

鷹野隆一はペンを右手で回しながら、ニヤニヤと笑っている。

「まぁ野球部万年補欠には負けますけど。」

私はちらっと横目で見ながら、次の授業の準備を始める。

「能ある鷹は爪を隠すんだよ。」

"鷹野だけに鷹"とひとりで喜んでいる彼を無視して、私は筆箱からシャーペンを取り出す。

その時、彼の机に広げられた教科書に目が止まった。

「あれ、次って英語だっけ?」

自分が手にしていた数学の教科書を見て思わず言った。

「違う違う。こいつは単に英語の宿題をやっていないだけ。それに次の数学は自習だって。」

鷹野の後ろ、私の斜め後ろの席から声がかえってきた。

さっきから適当に鷹野をあしらっていた水野晃である。

若干低い声とつり目が近寄りがたい印象を与えるが、話してみると案外気さくで面白い。

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