彼女
どこか遠く、遠く

暑さ

彼女は呟いた。

「"死ぬ"ってどういうことなのかな?」

私は飲んでいた缶ジュースを飲み干して言った。

「そんなの誰もわかんないよ。」

「死んだらわかるのかな。」

「でも死んだら自分はもういないじゃん。」

「じゃあ死ぬ瞬間、まだ意識のある最後の瞬間」

「もうやめてよ。」

私は彼女を遮って言った。
彼女はびっくりしたように私を見た。

私の声が大きかったからか、それとも私が突然立ち上がったからか。

理由はわからないけれど、彼女の元から大きな瞳は、さらに見開かれて私を捕らえている。

私はその目を受け止める勇気がなかった。

まだしゃがんだままの彼女を残して、私はとうに空になった缶を前方3㍍ほどにあるごみ箱に向かって投げた。

私たちの目線は孤を描く缶を経て、ごみ箱に移る。
太陽が眩しい。

カランカランと良い音を立ててそれは地面に着地し、さらに向こうに転がっていった。

「リベンジ。」

彼女はさっきまで飲んでいた缶を左右に振って、中身がないのを確認すると、私に渡した。

それを受け取ると、私はさっきより力を弱めて宙に投げる。

「あっ」

二人同時に声を上げ、その次の瞬間、また缶の良い音が響いた。

そしてさっきの缶よりさらに遠くに落ち着く。

「リベンジどころかさらに面倒なことに。」

しばらくしてから彼女が口を開いた。

「…いつもなら入るのにな。」

私は手を握ったり開いたりしながら、ごみ箱に目を向ける。

「まぁそんな時もあるよね−。」

彼女はそう言うと、よっと言いながら腰を上げ、スカートについた砂を手で落とし、私の横に並んだ。

私より頭ひとつ分小さい彼女。

肩にかかるかかからないか位にそろった薄茶色の髪。

彼女は髪を伸ばしたいと言っているが、私にはこの長さが一番彼女に似合っていると思う。

だいいち、彼女は夏になると必ず髪を切ってしまう。

彼女いわく、'髪がまとわりついて、より暑いから'とかなんとか。

彼女は日陰から勢いよく出ると、手で扇いで暑さを冷ましていた私の方を振り返った。

その瞬間、目が合った。

あの会話から全く目線を合わせていなかったことに私は気付く。

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