君色キャンバス
深緋色









次の日は、終業式。



紗波は終業式に出席せず、美術室の中から、体育館から響いてくる校歌を聞いていた。



空は晴れ、中庭の土は昨日の雪が溶けて凍っている。



花が、鋭い刃のような風に揺れ、少しずつ身を裂いていた。



暗幕に身体を包むと、昨日の祐輝の暖かさが恋しくなる。



小阪__久岡 踉は詐欺罪として捕まり、今日、裁判が開かれている。



展覧会に飾られた絵も、全て警察に押収され、戻ってくることは無かった。



紗波は裁判に出る事を断った。



テーブルに手をつき、椅子に座り、誰も居ない中庭を見下ろす。



赤や黄色の花々は、冬の寒気に堪え、中庭を華やかに飾り立てていた。



それを見ながら、紗波は思う。



(…どうして私は、笑えない…?)



闇色が消え、真っ白な雪色に染まったキャンバス。



哀しいような、淋しいような、心の中を風が通り抜ける感覚に紗波は戸惑う。



__こんな感覚を感じた事は一度もなかった。



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