異世界にて、王太子殿下にプロポーズされました。
『そんなにカリカリしないの。ほら、オレンジのクルミ入りマフィンよ。お茶を淹れるから、休憩しましょ』
「……うっ」
1ヶ月も一緒にいれば、キキがあたしの好みを熟知するのは当然。大好物に気を取られたあたしは、キキの思惑通りに椅子に腰かける。
せっかく午後の気持ちいい時間、あのセクハラ魔王のお陰で怒りっぱなしというのも悔しい。
それに、ここはティオンの為に建てられた離宮。あいつの評判なんて本音ではどうでも良いけど、仮にも次期の王さまなら、客人として振る舞いには気をつけないと。
『はい、オレンジのマフィンよ。一度にたくさん食べないようにね』
「わあい! いっただきま~す」
ぱくんとマフィンを頬張れば、黒糖の苦い甘さとオレンジの香りが口の中に広がる。
「うん! 美味しい」
『それはそうよ。ユズ、あなたが育てたオレンジと小麦を使ってるんですものね』
キキが視線で示した先にあるのは、ハーブ園に不似合いな大きなオレンジの木。
これがたった二晩で種から大きくなり、たわわに実を実らせたなんて信じられない。