Holy-Kiss~我が愛しき真夜中の女神達へ~【吸血鬼伝説】
 飛んで、飛んで。

 
 めちゃくちゃに飛んで、とうとう力尽きた時。

 俺は、何処とも判らない街の路地裏に落ちた。

 すえた臭いのする生ゴミバケツに派手に突っ込んで、ようやく止まる。




 早く。



 早く起き上がって、移動しないと、牙王が来る。

 しかし。

 気分は急いても、カラダが動いてくれなかった。

 胸に刺さった牙王の爪が、俺の力を急速に奪っているのだ。

 いつもなら、傷を癒やしてくれる月の光も災いし。

 治りかけた傷が、牙王の爪をがっちりつかんで、抜けなかった。



「く……そ……」


 最悪な気分で、俺は、仰向けに、寝転んだ。


 空には、赤い月が、無表情に輝いていた。


 牙王に言われるまでもない。



 俺は、弱い。


 いつだって、俺は、何も出来ずにこんな月を眺めていた。

 そして。

 最悪な気分の時は、必ず。

 ……こんな赤い月が空に浮いていたんだ。


 体力が急速に奪われて、まとっていたはずの不可視が、解ける。

 せめて、ヒトの姿に戻らないと更に面倒なことになるのは、明らかだった。

 
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