Holy-Kiss~我が愛しき真夜中の女神達へ~【吸血鬼伝説】
 待て、と言われてそのまま待つ莫迦はいない。

 俺は、牙王から充分離れると、黒い皮膜の翼を広げた。


「ざぁんげぇつ!」

 牙王の叫びを無視して。

 俺は、月光のふり注ぐ、自由な夜空へ舞い上がった。




 …………が。



 どしゅっ。



 背後から鈍い衝撃が、俺の背後から襲って来た。


 続いて、右胸をものすごい灼熱感が襲う。


 見れば。

 俺の右胸に、牙王の爪が生えていた。

 牙王が、長く伸ばした自分の爪を折って、俺に向かって投げつけたのだ。

 その狙いは、過たず。

 爪は、俺の右肩。

 翼の付け根から胸に貫通したようだった。



「……か……ふ……」


 喉の奥から、熱い、鉄の匂いがする液体がせり上がる。






 痛い………!





 意識を失いそうな、鮮烈な痛みに空から滑り落ちそうになりながら。

 それでも、俺は、翼をたたむ事はなかった。



 びゅっ……!



 追い討ちで飛んで来た、もう一本の爪を奇跡にかわして俺は、飛ぶ。

 
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