Holy-Kiss~我が愛しき真夜中の女神達へ~【吸血鬼伝説】
「……でも……
 残月は、もう、飛べない」

 工藤は、肩にある俺の手の上に、自分の手を乗せて言った。

「僕をかばって、敵の弾をいくつも受けてしまったから……」

「ふん」

 工藤の言葉を俺は鼻で笑った。

「吸血鬼を人間と一緒にしてもらっては、困るな。
 そんな傷なんぞ、この月の光でとっくに治っている。
 貴様が心配する事はない」

「でも、もう。
 このままでは、最後の日本軍の陣地に帰ることもできないんでしょう?
 すぐそこの谷を渡って、目の前にあるのに。
 遮光性の裏地のついた軍服を着ていても。
 太陽の光を浴びすぎた上に、大きな傷を負って、本当は、まともに歩く事だって出来ないんじゃないか」

「……工藤」

「残月は、ここで死んじゃ、駄目だよ。
 日本に、生きて帰ってよ。
 そして、伝えて?
 内地の人に。
 未来に生きる、僕達の子孫に。
 この莫迦な、戦いの事を。
 死者が山となす、愚かな争いの事を。
 長く長く生きる残月ならば、きっとより多くの人に伝えてくれるでしょう?」

「工藤」

「……そして……
 もし、僕の事を少しでも気にしてくれるなら。
 妹の……早苗のことを頼むよ。
 アイツ……気は強いけれど、本当はとても泣き虫なんだ」

「工藤!!」

「残月、飛んで?
 僕の血を吸って、日本まで。
 そしたら、僕も、残月と一緒に、懐かしい故郷まで帰れる………っ!」

「工藤!!!」
 

 
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