スノードームと恋の魔法
「お客さん、申し訳ないけど、これ以上、先に進むのは無理そうです」
そう告げるとタクシーの運転手は、こちらを振り向いて頭を垂れた。
この村に降り立った時から深々と降り積もる雪は、辺り一面を銀世界にし、なるほど、タクシーのヘッドライトが示す先には道なき道になっていた。
「ここまで来といてなんですけど、本当にこれ以上先に進まれるおつもりですか?なんだったら、引き返しましょうか?」
運転手自身も、この場所がここまで雪深くなっていたなどと想像していなかったらしい。
心配そうな顔をして私を覗き込む。
白髪混じった短髪の、いかにも人の好さそうな運転手だった。
「ご心配ありがとうございます。仕事ですので、どうしても今日、訪ねないといけないんです。先方にもそのように連絡していますので」
お礼を言って支払いを済ませると、タクシーを降りた。
運転手は申し訳なさそうにお辞儀をすると、Uターンをして、元来た道を戻って行った。
さて、では参りますかと気合いを入れて針葉樹林の並木道の入り口に立った。
冷たい空気を肺いっぱいに吸い込んで、ふぅと白い息を吐いた。
ぎっしりと資料の入った重たいカバンを肩に掛け、誰もまだ足を踏み入れていないだろう雪道に挑む。
一歩踏み出す毎にずぶずぶと足が沈む。
さらさらとした軽い雪のようだった。