妖勾伝
熱くたぎった眼玉とは裏腹に、腹の底からジンと冷やす様な、化け猫の声色。

レンは、息をのんだ。





「あんな陳腐な人術で、
儂の躰を此処まで無惨なモノにしよって…」










レンによって召喚されかけた躰は、酷く朽ちかけている様に見える。








よろめく巨駆ーー


その術によって受けた痛手は化け猫自身というよりも、その躰に宿した数多の愚身達が、切に耐えきれなかったんだろう。


化け猫はそのすべての痛みを、一身に引き受けた。





驕る者への、報い。

態度は、見るからに明らかだった。











「黒葛を仕留めてあのお方に差し出す前に、
レン、儂を此処までしたお前から血祭りに上げてくれるわ!

儂の最愛の息子、
翠人を誑かした珀と共になーーー」






地を震わす。


真一文字に宙を切って裂かれた空間は確固たる歪みとなり、深手を負っている様には見えない速さで、化け猫の爪痕がレンを追ってくる。












ーーーこれが、
闇の力…







太刀を構える隙を与えず目の前を鋭く掠め近付く鈎爪に、レンはその大きな両の瞳を開き見据えた。




グッと息を堪え、時を操る。










小さな螺旋を描いて迫り来る化け猫の鈎爪から、紙一重で避ける瞬間ーー






レンのこめかみ。

白い肌がプツリと音を立てて、その深紅の色を薄闇に迸した。


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