変わり者同盟
現状維持。今の私にできることは、それぐらいだと思う。

情けない、なぁ・・・。


「おはよ、比佐乃。何、どんよりしてんの?」


情けなくなっていると、そう、声をかけられた。
久流君、に。

私の心臓はバクバクし始める。

久流君にとっては挨拶なんて普通のことなんだろうけど、私にとって久流君の挨拶は、かなり緊張する類のもの。


「・・・・・・おはよう、ございます・・・久流、君。」

斜め前にいる久流君に目をあわさず、俯いて答えた。

暗く見える挨拶だっていうのは、百も承知。でも、今の私にはこれが精一杯。


久流君は、私の暗い挨拶を聞いた後、なぜか私の目を覗き込んできた。


――ドキッ

心臓が跳ねた。


久流君の顔が、近い・・・。
それに、久流君の黒い瞳から、目が逸らせない。

引力、とでもいうのかな。
久流君の黒い瞳は、私の視線を引きつけた。嫌って言うくらいに。

逸らせないくらいに、私の視線を引きつけて、離してくれないんだ。


久流君は、私の視線を絡め取ったまま、口を開いた。

「比佐乃、なんか、嫌な事でもあった?大丈夫か?」


静かで、優しい声だった。

きゅぅっと、心臓が音を立てた。


そんなこと、言ってくれたのは、久流君が初めてで。

そんなに、静かで優しい声を聞いたのも、久流君が初めてで。

真剣な、真っ直ぐな瞳に、胸が苦しくなる。


嫌な事、あったよ。いつだって、あるんだよ。大丈夫なんかじゃ、ないよっ・・・。

そう、言いたい衝動に駆られたけど、私はぎゅっと拳を硬く握った。


久流君に、私なんかが弱音を吐いちゃいけないし、私はイジられてるだけ。
だから、言っちゃ、駄目だよ。



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