小指も抱けない彼女
ーー
「うわー、夜鞠くんとおんなじ匂いだー」
「同じ洗剤使って洗っておいたからね」
くんくんと袖を通すなりに服の匂いを嗅ぐ彼女だった。三日前と同じ姿、どこにも異常がないかとは見て分かるし。
「良かった、聖。身長は前とまったく同じだよ。体重は少し増えたみたいだけど」
「お腹をフニフニしないっ」
触って分かった変化も許容範囲。間違いなく、前の聖と同じ姿形だ。
「やま、夜鞠くん、抱きしめたいのは分かるけど、会社遅刻しちゃうよ?」
「もうちょっとだけ」
小人でなくとも小柄な彼女を膝上に置き、梱包するかのようにその身を抱く。
身を捩らせて抜け出そうとする彼女だが、俺のワガママに付き合ってくれるらしい。頭を撫でてくれた。
「オチがあるなら、今度は夜鞠くんが小さくなる番だね」
「冗談でもやめてほしいなぁ」
小指も抱けなかった彼女の悔しさがよく分かる。愛する者を抱けるこの喜び。
ーーずっと一緒にいたい。そんな願いが叶わずとも、思うだけで十分だ。それだけ相手を好く気持ちがあるならば、会えない苦痛も、手を伸ばして届く距離になればどこ吹く風。
「聖、愛してる」
「知ってるよー」
言葉にしなくても伝わる想い。見えずとも分かる相手の心。
恐怖も不安も要らない。聖はそばにいてくれる、どこへ行こうとも必ず。だってーー