恋のためらい~S系同期に誘惑されて~
今更、今更、今更とお経のように唱えていた所為か、システム課のフロアに辿り着いた頃にはどうにか平常心を取り戻していた。
まだ他の人達は来ていないらしく、私のチームのシマには笹山の背中だけが見えた。
その背中がコーヒーショップでの光景とダブって、近付くことに躊躇してしまう。
いつもみたいに声を掛ければ良いだけじゃん。
私はいつの間にか止めていた息を吐いた。
すると、それまでパソコンに向いていた笹山の体が、クルリと椅子ごと反転した。
私はビックリして思わず一歩後ずさった。
「おっ、おはよ」
「ん……」
笹山は椅子に座ったままで私を見つめる。
その私の心の内を見透かすような瞳の鋭さに、鼓動が跳ねた。
「な、なに」
「……その色気の無い恰好でデートはありえないよな?」
「はぁぁぁ?」
真顔で何言ってんの?この男は。
「今日、午後から俺とお前で東野物産の修正打ち合わせ行くから」
……絶対さっきのは私の気の迷いだ。
こんなデリカシー無しの暴言男に、やっぱりありえない。